構図が完璧な絵が、1枚できました。橋の上から子どもたちが川をのぞいている絵です。
ただし手だけが壊れていました。指のない円錐と、肘のない棒のような腕。
手を直そうと指示を出すと、毎回もっと悪い構図が返ってきます。半日かけて何十回も回して、こちらが先に音を上げました。
先に結論をお伝えします。「AIが言うことを聞かない」と思っていましたが、実際は「こちらが言えていなかった」だけでした。原因は3つあって、3つとも私の側にありました。

原因①|そもそも、不可能な注文をしていた
私の指示は、こうでした。
・人物は真後ろから見た後ろ姿にする
・下のほうを指さしているポーズにする
落ち着いて考えると、これは両立しません。真後ろから見た人が下に腕を伸ばすと、その腕は体に隠れて見えないからです。
「指さしを見せろ」と「後ろ姿にしろ」を同時に満たそうとして、AIは体をひねったり、無理に顔を出したりして、そのたびに絵が破綻していました。
無理な注文だったのに、AIの不出来として扱っていたわけです。
ここから覚えたのは、うまくいかないときに「この2つ、同時に成立するか?」を一度紙の上で考えることでした。矛盾していたら、何回回しても永久に出ません。
原因②|左右を、逆に書いていた
これがいちばん恥ずかしい発見でした。
後ろから見た人物の「右手」は、画面の右側にあります。鏡ではないので、左右は入れ替わりません。
ところが私は、画面の左に写っている腕を見ながら「右腕を直して」と書いていました。
私が直したかった腕 → 画面の左側にある腕
私が指定していた腕 → 画面の右側にある腕(=壊れていないほう)
直させたい腕を、一度も指定できていませんでした。何十回も「言うことを聞かないな」と思っていたのに、聞くべき指示が届いていなかったんです。
対策は簡単でした。
×「右腕を直して」
○「画面の左側にある腕を直して」
「右/左」をやめて、「画面のどちら側」と書く。これなら人間同士でも取り違えません。後ろ姿・横向き・鏡が写っている絵では、必ずこう書くことにしました。
原因③|腕の「出どころ」を、一度も指定していなかった
拡大して、もう1つ見つけました。
腕が、シャツの袖口ではなく、裾の下(腰のあたり)から生えていました。肩から手までの道がシャツで塞がっているので、肘の位置が決まりようがありません。
指示文には「肩から出る」と書いてありました。でも「肩」は絵の中に描かれていない、こちらの頭の中だけにある言葉です。どこを肩と見なすかは、AIの自由でした。
効いたのは、この書き方です。
半袖の袖口から腕が出るようにしてください。
シャツの裾の下から出さないでください。
抽象的な言葉(肩)ではなく、絵の中に実際に描かれている物(袖口)を基準にする。そうすると逃げ道がなくなります。
これは禁止の書き方の記事と同じ考え方でした。あのときは「動き方ではなく、変わりうる属性で書く」。今回は「頭の中の言葉ではなく、描かれている物で書く」。どちらも、解釈の余地を物理的に減らすという話です。

手を壊さないための3つの手(安い順)
①手に、物を握らせる
いちばん効きます。自由な手は、形が無限にあるので壊れます。でも棒や取っ手を握った拳なら、形が物のほうで決まるので破綻しません。
手すり、カップ、傘、紙、鉛筆——何でもいいので握らせる。うちのキャラクターの指示文にも、この一手を標準で入れるようにしました。
②手を、隠す
身も蓋もないですが、確実です。手すりの向こうに回り込ませる、ポケットに入れる、机の下にする。描かれなければ壊れません。
③壊れた部分だけ切り出して、直させて、貼り戻す
これが今回いちばん学びになった手です。
全体を作り直させると、気に入っていた構図まで動きます。今回もそれで何十回も無駄にしました。手の部分だけを切り出して直せば、周囲は1画素も変わりません。
「良い部分を守る」という発想が、そもそも抜けていました。
そして結末|また人力で直しました
正直に書きます。最終的には画像編集ソフトで、手作業で継ぎはぎして完成させました。
そして、これがこたえたところなんですが——5日前にも、まったく同じ結末を迎えていました。あのときは椅子の位置が直らなくて、最後は30秒の手作業で片づきました。
そのとき私は「2回やって同じものが出たら手で直す」というルールを作ったんです。作ったのに、5日後に何十回も回していました。
学びは、記録しただけでは効きません。これはルールを埋め込む話で自分が書いたことそのままで、書いた本人が実演した形になりました。
なぜ粘ってしまうのか
理由は分かっています。あと1回で通る気がするからです。
しかも今回は構図が完璧だったので、なおさら「この絵を活かしたい」と思ってしまいました。惜しい絵ほど、粘る時間が長くなるんです。
だから今度は、ルールの形を変えました。「2回で手で直す」ではなく、粘りはじめる前に、人力で直す時間を先に見積もる。「これ、手でやったら何分ですか?」と自分に聞く。
今回の答えは「10分」でした。半日かける前に、それが分かっていればよかった。
よくある質問
AIに分析させてから直させれば?
試して負けています。前回の記事のとおりで、分析は満点なのに、出てくる絵は同じでした。診断ができることと、直せることは別の能力です。今回もその提案が出ましたが、見送りました。
文章を書かせるときも、同じことがありますか?
あります。「もっとやわらかく」「読みやすく」は、絵でいう「肩」と同じで、こちらの頭の中にしかない言葉です。「1文を60字以内に」「漢字を減らして、この5語をひらがなに」のように、数えられる形・実在する語で書くと一発で通ります。
指示が届いているか、確かめる方法はありますか?
私がやっているのは「いま出した指示を、あなたの言葉で言い直してください。まだ描かないで」です。返ってきた説明を読むと、届いていない項目が一目で分かります。今回これをやっていれば、「右腕」の取り違えは最初に見つかっていました。
まとめ|言うことを聞かないのではなく、言えていない
- 「AIが言うことを聞かない」の多くは、指示が届いていないだけ
- 矛盾した注文は、何回回しても出ない。両立するかを先に考える
- 後ろ姿の左右は入れ替わらない。「右/左」ではなく「画面のどちら側」と書く
- 抽象語(肩)ではなく、絵に描かれている物(袖口)を基準にする
- 手は物を握らせる・隠す・部分だけ直すの順で安い
- 粘る前に、人力で直す時間を見積もる。惜しい絵ほど粘ってしまう
もしAIが何度言っても直してくれないなら、その指示が本当に届いているかを疑ってみてください。
私の場合、半日ぶんの「言うことを聞かないな」は、存在しない腕に向かって話しかけていた時間でした。

