※本記事はアフィリエイト広告(PR)を含みます。
AIに頼んで、作業を自動化する小さなツールを作ってもらいました。SNS用のカバー画像を、写真と文字から自動で組み立てるツールです。
3週間、毎回きちんと動いていました。エラーはゼロ。ファイルも毎回ちゃんと出てくる。ところが実態はこうでした。
稼働率100%。採用率0%。
出力は毎回捨てられ、手作業で作り直されていました。作り直していたのは、ほかでもない私です。しかも私は、ツールに対してひとことも文句を言っていませんでした。
先に結論をお伝えします。「動いている」と「使われている」はまったくの別物です。そして道具が本当に使われているかを確かめる質問は「使ってますか?」ではありません。「最後に、これの出力をそのまま使ったのはいつですか?」です。
記事の後半では、もっと怖い話をします。使われない道具を放置すると、過去の比較テストの結果まで汚染されるという話です。

何が起きたか|3週間、誰も使っていなかった
経緯はシンプルです。
- AIにカバー画像の自動生成ツールを作ってもらった
- ツールは毎回正常に動き、画像を出力し続けた
- でも出来が野暮ったくて、私は毎回、別のAIに手作業で作り直させていた
- AI側は「カバー画像は自動化済み」という前提で、次の作業計画を立て続けていた
発覚のきっかけは、私が別の話のついでに、ぽろっと白状したことでした。
「これがダサくて毎回別のAIにお願いしてたけど、もういりません」
3週間、毎回動いて、毎回捨てられていた。この間、エラー報告はゼロ。クレームもゼロ。すべてのログが「順調」を示したまま、成果物だけが誰にも使われていなかったのです。
なぜ気づけなかったのか|出来の悪い道具に、人は文句を言わない
ふり返って怖かったのはここです。私はこのツールに、不満を伝えた記憶が一度もありません。
出来の悪い道具に対して、人は文句を言わないんです。黙って迂回(うかい)策を作って、それを使い続けます。私の場合は「別のAIに毎回作り直させる」という迂回でした。
そして迂回は、数日で日常になります。日常になった不満は、もう不満の顔をしていません。本人にすら「我慢している」という自覚がなくなる。文句というシグナルは、最初の数日しか発生しないんです。
「使ってますか?」が効かない理由
もしあのとき「ツール、使ってますか?」と聞かれていたら、私は「使ってるよ」と答えていたと思います。ツールは動いていて、ファイルも受け取っているので、嘘ではないからです。
感想を聞いても、迂回は見つかりません。迂回は感想には出ず、行動に出るからです。
効く質問|「最後に、出力をそのまま使ったのはいつですか」
だから、聞くべきは感想ではなく行動です。
最後に、このツールの出力を「そのまま」使ったのはいつですか?
ポイントは「そのまま」の3文字です。毎回手直ししてから使っているなら、それは半分迂回されています。そして答えが「……いつだったかな」なら、その道具はもう使われていません。
これはAIに仕事を任せる側にも刺さる話です。AIは自分が作ったものを「エラーなく動いた=機能している」と判定して報告してきます。完了条件の書き方の記事では「AIの完了報告をそのまま信じない」という話を書きましたが、今回はその逆で、人間が不満を報告しなかったせいで、AI側の前提が3週間ずれ続けたわけです。
もっと怖い話|迂回は、過去のデータまで汚染する
ここからが、この記事でいちばん書きたかったことです。
2ヶ月ほど前、こういう比較テストをして方針を決めていました。
【当時の結論】
AIイラストのカバー画像のほうが、写真のカバーより成績が良い
→ 今後はイラストを採用
数字は本物でした。集計も正しい。でも、このとき比較に使った「写真のカバー」は、例のダサいツールが吐いた写真カバーだったんです。
つまり測っていたのは「イラスト vs 写真」ではなく、「イラスト vs ダサい枠のついた写真」でした。
負けた側が手抜き実装なら、それは比較ではなく出来レースです。にもかかわらず、数字は出るし、グラフは描けるし、意思決定はできてしまう。そして間違った勝者が「実測で勝った」という肩書きを手に入れて、その後ずっと生き延びるんです。
負けた側は、検証されずに捨てられる
比較テストで勝った側を疑う人は、まだいます。でも負けた側の実装品質を疑う人は、ほとんどいません。負けたものは、負けた理由を検証されないまま捨てられるからです。
この問題のいやらしさは、AI画像が毎回同じ構図になる問題と同じで、失敗しているように見えないことです。ログは正常、数字は本物、グラフもきれい。壊れている音がどこからもしないまま、判断だけが静かにずれていきます。

対策|うちのルールにした3つ
①見た目に関わる出力は、実物を並べて人間が選ぶ
「正常に動いたか」はAIが判定できます。でも「採用したくなる出来か」は、実物を見た人間にしか判定できません。見た目に関わる自動化は、出力の実物を並べて人間が採否を決める工程を最初から組み込む。ここを省くと、今回の私のように黙って迂回が始まります。
②「採用率」を定点で聞く
道具の棚卸しは「使ってますか」ではなく、「最後に出力をそのまま使ったのはいつですか」で聞く。うちではこの質問を、自動化ツールを見直すときの定番の質問にしました。稼働ログは嘘をつきませんが、稼働ログが示すのは「動いたこと」だけです。
③比較テストは「負けた側」をもう一度見る
テスト結果で方針を決める前に、負けた側の実装が全力だったかを確認する。負けた側が「とりあえず動く版」だったなら、その比較はやり直しです。うちの「イラスト採用」の方針も、写真側をちゃんと作ったうえで、いずれ測り直すことにしました。
よくある質問
最初から作り直させればよかったのでは?
そのとおりです。ただ、当時の私は「どうダサいのか」をうまく言語化できませんでした。枠の色、文字の置き方、ひとつひとつは「直して」と言うほどでもない。だから言葉にして直させるより、黙って迂回するほうが速かったんです。いま思えば、言語化できないなら複数案を出させて選ぶ形にすればよかった。選ぶだけなら言語化は要りません。
AIツールに限った話ですか?
いいえ、人間が作った社内ツールでも同じことが起きます。ただAIの場合は「エラーなく動いた=成功」と自分で判定して報告してくるぶん、発見が遅れやすいと感じます。使う側が黙っていると、ずれた前提のまま計画がどんどん進みます。
AIに文句を言うのは気がひけます
遠慮はまったく不要です。AIは気にしません。むしろ「遠慮のコストがゼロ」はAIに仕事を任せる最大の長所で、人間相手なら言いにくい「全部やり直し」も一瞬で頼めます。私の場合も、遠慮していたわけではなく、迂回のほうが考えなくて済むからそうしていただけでした。それでも結果は同じで、作った側には何も伝わりません。
まとめ|稼働率ではなく、採用率を見る
- 「動いている」と「使われている」は別物。稼働率100%でも採用率0%はありえる
- 出来の悪い道具に人は文句を言わない。黙って迂回し、迂回は数日で日常になる
- 「使ってますか」は効かない。「最後に出力をそのまま使ったのはいつですか」と行動を聞く
- 迂回は過去の比較テストまで汚染する。負けた側の実装品質を疑う
- 見た目に関わる出力は、実物を並べて人間が選ぶ工程を最初から入れる
もし心当たりのある道具が職場にあるなら、今日ためしに聞いてみてください。「最後に、これの出力をそのまま使ったのはいつだったかな」と。
私の場合、答えは「一度もなかった」でした。3週間、毎回まじめに動いてくれていた道具に対して、いちばん不誠実だったのは、黙っていた私のほうだったのです。

